「宝石は買う時は高いけど売るときは二束三文ではないの?」と言う質問を良く受けます。確かに宝石は投機には向きません。投資にもお勧めしません。しかし、適切に選べば長い間身に着けて楽しんだ後に確かな価値が残る唯一のものではないでしょうか。ここでは代表的な還流市場としてのオークションで宝石がどう評価されるか例にとりながら選び方のアドバイスをします。

 

1. 装身具の3分類

装身具を大きく分けると以下の3つになります。

 

宝石を主体とする装身具

貴金属を主体とする装身具

その他の装身具

 

「宝石を主体とする装身具」は、宝石の美しさを引き出すことを主眼として作られますので、最低限の貴金属を使って宝石の美しさを最大限に見せることに注力しています。スタイルの選択さえ間違わなければ世代を超えて「受け継がれる」ジュエリーになります。

 

「貴金属を主体とする装身具」は、まず貴金属で時代にあったフォルム(形)を作ります。メレーダイヤモンド等が留められているものもありますが、流行に合わなくなれば最終的には地金に戻すため「溶かされる」運命にあります。

 

「その他の装身具」は、一般的にアクセサリーと言われています。貴金属以外で作られた装身具なので、最終的には「捨てられる」運命にあるので価値はありません。還流市場で評価されるには「宝石を主体とする装身具」を選ぶことです。

 

2. 宝石種

宝石は、発見され、「流行」が起き、「習慣」になって、「伝統」が作られます。長い間をかけて「伝統」が出来た宝石が評価されます。

 

評価されている宝石は、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドが筆頭で、アレキサンドライト、キャッツアイが限定的ながら続きます。ヒスイも評価が高いのですが、中華系のローカルな宝石なので相場は中華圏の景気に左右されます。

 

鉱物ではありませんが、天然真珠も養殖真珠とは全く異なる高い評価がされています。その他、現在はさまざまな宝石(養殖真珠含む)が人気ですが、上記に記した宝石種を除いては、よほど特別な品質でない限り、還流品市場では評価があまり期待できません。

 

3. サイズ

伝統がある宝石でも品質の大きな要素である「サイズ」が価値の絶対的要素です。サイズは大きければ大きければ大きいほど価値が上がります。

 

小粒宝石が集合したジュエリーは装身具としては優秀ですが、還流市場では評価は低くなります。「山椒は小粒でもピリリ」と言う考え方はこの市場では当てはまりません。

 

欧米では、ダイヤモンドやルビーでもメインストーンとしては4カラット以上に人気があります。もちろん、2カラットや3カラットでも重さではなく見た目の大きさが十分ならば需要はあります。大粒の産出が多いサファイアやエメラルドでは更に大きなサイズになります。国際的な価値観がスタンダードです。

 

4. 産地

伝統のある宝石には伝統のある産地があります。同じ宝石でも産地により価値が異なります。現在は、データの蓄積によりルビー、サファイア、エメラルドは特定の産地を同定することが出来ます。

 

ルビーは、ビルマ産(ミャンマー産)、エメラルドはコロンビア産の評価が高く、それ以外の産地と大きな差があります。市場の評価とは別に小さいサイズが美しいザンビア産、ブラジル産、ジンバブエ産のエメラルドのようにそれぞれのサイズに適した産地もあります。

 

サファイアは、既にほぼ枯渇し、その独特の色に人気のあるカシミール産を筆頭にビルマ産、スリランカ産と続きます。その他の産地は美しいものが産出されていても評価が定まるまで長い時間を要します。

 

ダイヤモンドは現在のところ産地を同定する技術が確立していません。その代わり、最近は多くのダイヤモンドが微量に含んでいる窒素を殆ど含んでいないタイプのダイヤモンド(TypeⅡ)にプレミアムがついています。より純粋な炭素の結晶で特別に透明度が高いものが存在しますが、そうでないものもあるので注意が必要です。

 

5. 処理

1970年ごろから宝石の加熱処理や含侵処理が著しくなって処理と処理されていないものが一緒に扱われて混乱した時期もありましたが、最近は鑑別技術の向上で処理の程度や処理の痕跡のないもの(無処理)がラボで分かるようになってきました。無処理宝石が本来持っている稀少性が再び正当な評価を得られるようになりました。

 

ルビー、サファイアでは、加熱の痕跡のないもの(無処理)が還流市場で高額な評価を得られる必須条件です。
エメラルドは、亀裂の多い結晶の性格からオイル等の含侵を必要とするものが殆どですが、含侵の程度が分類できるようになり、含侵の程度が軽いものと含侵の痕跡がないもの(無処理)が高い評価を得ています。

 

ダイヤモンドにも処理がありますが流通しているカラーレスのダイヤモンドの殆どは処理を必要としませんので、処理されているものが価値のないものとして別に扱われています。

 

6. 美しさ

以上(1~5)の条件を全て満たしていても美しくなければ、評価されません。美しさのレベルは、宝石種、産地、処理で各々異なります。そのレベルはビューティーグレードと明暗度(トーン)で決まります。また、サイズと形によって適切な明暗度も違ってきます。興味のある方は、諏訪恭一著「宝石1,2」(世界文化社刊)で解説されていますのでご一読下さい。

 

ブランドは人気度

ジュエリーを購入するときにブランドを気にする方は多いと思いますが、オークションではブランドは人気度で判断されます。オークションのリザーブプライス(最低落札価格)に極端なブランドのプレミアムがつくことはありません。その時に人気のあるブランドは価格が競りあがっていきますので市場にまかせます。また、同じブランドでもアイテムによって人気も異なります。ブランドは普遍的な価値ではありません。

 

細工も人気度

オークションでは幾ら細工が凝っていてもリザーブ価格では考慮しません。その細工が時代に合っていれば価格が競りあがっていきますのでブランドと同じ考え方です。反対に言えば、新たに作ると高額な工賃になるようなものはオークションではリーズナブルな価格で手に入る可能性があります。

 

レポート

メーカーから出荷されるジュエリーと異なり、一度プロの手を離れた宝石を還流市場で扱うには真贋の確認に新たな鑑別書やグレーディングレポートが必要です。稀少性の高い宝石は国際商品なので世界で通用するラボのレポートが不可欠です。現在、カラーストーンには米国のGIA、AGLに加えスイスのGübelin, SSEFの産地と処理の分析書、ダイヤモンドにはGIAのDiamond Grading Reportが主に添付されて取引されています。 レポートでデータは分かりますが、美しさは判断できません。美しさは肉眼で判断することを忘れないで下さい。

 

7. まとめ

長い目で見ると宝石の価値は殆ど変わりません。為替の変動、インフレ、デフレ等でその国での価格は変化します。変わるのは貨幣価値で宝石の相対的な価値は変わりません。歴史的に評価されてきた宝石の要素を理解して購入すれば、楽しんだ後に価値が残ることを実感していただける日が来るでしょう。

 

中古住宅とはいっても中古の土地とは言わないように、貴金属で出来た枠には中古がありますが、宝石には中古はありません。 毎年採れる新しい宝石の中で稀少性の高い宝石はわずかです。稀少性が高い宝石のもっとも大きな供給源はオークションのような還流市場です。

 

宝石は、大自然からの預かり物です。預かった宝石を還流市場で次の預かり手に渡していくお手伝いが宝石商の大事な仕事です。

 

最後に還流市場では流通マージンがそぎ落とされますので、既述の条件にあうような宝石は小売でもオークション会社の手数料程度(売り手と買い手の双方から10~25%程度)で扱うことが成熟したマーケットの常識です。流通側の理解も必要です。